Amazonは、5月21日に2025年度のAmazon Publisher Services「以下APS」サミットにおいて、Forrester Wave™:セルサイドプラットフォーム(2024年第4四半期)においてリーダーに選出されたことを発表しました。
これを受けAmazonは広告業界の更なる透明性と公平性実現のために、Prebid「オープンソースのリアルタイムヘッダービッディング」プロジェクトへの参画を発表し年内中のサービスローチンを目指すとのことです。
これは、Prebidが業界標準として確固たる地位を築いたことを示すものだと言えます。

ヘッダービッディングの歴史
Exchange Biddingと呼ばれ2018年に「OpenBidding」として正式にサービスインされた
Googleのサーバーサイドヘッダービッティングに対抗するべく開発・発足されたオープンソースのヘッダービッディングプロジェクトがPrebidである。
Googleは長らくこれを主力にリアルタイムビッディング方式のアドエクスチェンジ
「Google Adexchange」を抱き合わせ販売することで広告スタック業界の覇権と独占性を保ってきたのは周知の事実であろう。
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対照的にAmazonはPrebidアダプターをリリースしこのプロジェクトに参画することで、オープンソースのPrebidエコシステムの支持をより強固であることを示した。
Amazonにとって、Prebidをめぐる「抗争」は事実上終結したと言えるでしょう。
AmazonがPrebidに参入したことは、長年オープンソースソリューションを提唱してきた業界のベテランたちにとって、まさに転換期と言えるだろう。Amazon Web Services(AWS)のパブリッシャー向け広告テクノロジーソリューション担当グローバルヘッド、ステファニー・レイザー氏は、AmazonとPrebidの相互運用というアイデアがかつてどれほど物議を醸したかを振り返った。

AmazonとPrebidをめぐる抗争
「2016年、私は(AdExchangerの)サラ・スルイス氏にA9はPrebidと相互運用できないと言ったため、解雇されました」と彼女はLinkedInに書いている。「私たちのCEOはAmazonから連絡を受け、それを口実に私を解雇したのです。」
出典元:https://www.admonsters.com/amazon-joins-the-prebid-party-with-its-own-adapter/
その後レイザー氏は、コンサルティング業に戻り、企業のPrebid導入を支援し続け、収益を20~40%増加させたと彼女は記している。最終的にニューズ・コーポレーションに移り、同様の取り組みを同社の事業部門全体に拡大した。その後AWSに入社した際も、この話題から離れることはなかったそうだ。
「話を聞いてくれる人には誰にでもこのことを話しました」とレイザー氏はLinkedInに書いている。「幸運なことに、スコット(シーグラー氏、Amazonのパブリッシャーサービス担当ディレクター)に出会うことができました。彼がこの提案を推し進めたのは、これが正しいと分かっていたからだと思いますが、同時に、私に一切関わらないでほしいと思っていたからでもありました。:)」
AmazonがPrebid運動に参画
AmazonがTeam Prebid に加わることは、実際的にはどのような意味を持つのでしょうか?
- Amazonデマンドへの接続がより容易になり作業工数が減る
- ラッパー毎の動作制御が減りレイテンシーが低下する
- GAMにおけるオーダーの数が減りより管理が楽になる
Amazonデマンドへの接続がより容易になり作業工数が減る
今まで、Amazonが抱えるDSPやSSPなどのプレミアムなデマンドに接続するには、サイト規模に合わせてTAMまたは/UAMと呼ばれるAPS専用のラッパーの実装が必要でした。
この実装は、技術的な専門知識と時間を要する作業であり、特に中小規模のパブリッシャーにとっては大きな負担となっていました。また、ラッパーの導入後も、定期的なメンテナンスやアップデート、競合他社との連携による複雑な設定など、運用面での工数も決して少なくありませんでした。
これからはPrebidなどの既存のヘッダー入札ラッパーを通じて、OpenRTBなど業界標準のプロトコルに準拠した実装が可能になり、Amazonのデマンドへの接続がより安易になります。
ラッパーごとの動作制御が減り、レイテンシーが低下
以前は、それぞれのラッパーが個々に入札リクエストを送り、またフラグなどで動作を管理する必要がありました。これは、広告サーバーであるGAM(Google Ad Manager)のレスポンスに遅れを生じさせ、結果としてページの読み込み速度を低下させる原因となっていました。
しかし、新たな接続方法では、これらの個別制御が大幅に削減されます。これにより、不必要な入札リクエストの重複や、複雑なフラグ管理による処理の遅延が解消され、広告の読み込みにかかる時間が短縮されます。その結果、ユーザー体験が向上し、広告の視認性や収益性にも良い影響が期待できます。
GAMにおけるオーダー数が減り、より管理が楽に
これまで、APS(Amazon Publisher Services)を利用する際には、APS専用のオーダーを多数作成する必要があり、Google Ad Manager(GAM)での管理が非常に複雑になる傾向がありました。これは、入札戦略や広告枠の細分化に合わせてオーダーが増え、運用担当者の負担を増大させていたのです。
しかし、Prebidなどのヘッダー入札を活用することで、この状況は大きく改善されます。Prebidならば、APS専用のオーダーを細かく設定する必要がなくなり、入札単価(bid Price)のグループ分だけのオーダーを用意すればよくなります。
これにより、GAMにおけるオーダーの総数が大幅に削減され、日々の管理作業が格段に楽になります。設定ミスや重複のリスクも減少し、より効率的かつ正確な広告運用が可能になるでしょう。
Googleの独占と保身に対局し、よりオープンな世界へ
Amazonは、Prebidアダプターを開発したことで、ヘッダー入札のエコシステムに本格的に参画し、パブリッシャーにとってのデマンド統合を大きく簡素化しました。これまで断片化されがちだったソリューションに対し、Amazonは信頼性の高いオープンソースフレームワークであるPrebidを通じて、その豊富なデマンドへの明確な接続経路を提供します。
この動きは、アドテク業界全体におけるAmazonの姿勢の変化を示しています。Amazonは、Googleの独占と保身に対局するように、単なる競争ではなく、オープンスタンダードと相互運用性を重視した「協業」へとシフトしているのです。これにより、パブリッシャーは複雑な設定から解放され、自身の広告運用に対するコントロールを強化し、結果として収益化の機会を拡大することができます。
つまり、AmazonがPrebidアダプターを開発したことは、アドテク業界にとって非常に重要な転換点です。Prebidのオープンソースアプローチが成功を収め、誰もが参加できる公平な場を提供している中で、Amazonの参画は、そのエコシステムをさらに強固なものにするでしょう。