連邦裁判所は米国時間の4月17日にGoogleの主要な収益元である広告事業の二つが違法な独占に当たるとの判決を下している。
米連邦地裁判事の「レオニー・ブリンケマ氏」は判決文の中で、Googleが1890年制定の反トラスト法であるシャーマン法の第2条に違反し「媒体向け広告サーバーとプログラマティック取引システム抱き合わせ販売は広告取引市場を故意に独占的地位を獲得・維持している」と述べた。
これはGoogleにとって1年足らずで2度目の大きな敗北となる。2024年8月、同社はオンライン検索事業でも違法な独占状態にあると認定された。前回と同様、Googleは判決を不服として控訴する方針だ。
個人や小規模のメディアはGoogleが運営するアドネットワーク「AdSense」を活用しているため関係がないように見えるがメディアの収益性を問われる重要な事案なのでわかりやすく解説する。
Google広告事件
この判決は、2023年1月に訴訟があったオンライン広告事業の一部売却などを求めてグーグルを提訴した「Google広告事件」の判決です。
Googleの収益の80%は広告ビジネスが生んでいます。消費者のほとんどの方はこの事実はあまり意識せずに便利なGoogleのプロダクトを日々使っていることだろう。
またパブリッシャーもあまり意識せずともGoogleの広告プロダクトを使っていることではないだろうか?
広告ビジネスは、出したい側(デマンドサイド)と掲載したい側(サプライサイド)の関係で成り立っているのは聞いたことあるだろうGoogle AdExchangeはこの2つを繋ぐ、
アドエクスチェンジと言う役割を担っていると言われやすいが正確には違う。
Google AdExchange(公開オークション)
GoogleAdExchangeは、2007年にGoogleによって買収された、Dobuleclick が2009年(日本では2017年7月)に提供を開始し、同社が開発するパブリッシャー向け広告在庫(インベントリー)管理ツール「DoubleClick For Publisher」後のGoogleアドマネージャーを補完するSSP「サプライサイドプラットフォーム」として開発された。
2018年6月27日にブランド再編により「Googleアドマネージャー」「Googleマーケティングプラットフォーム」「Googleアドエクスチェンジ」として名称が変更統合されて以来、
更なるシェアを獲得しているプラットフォームである。
同製品は、Googleのネットワークに広告出稿したいデマンドサイド(広告主やDSP)がGoogleの広告枠(アドマネージャー枠やAdSense、YouTube、Google検索等)を売買
するための製品。
したがって、出したい側(デマンドサイド)と掲載したい側(サプライサイド)のすべてを繋ぐアドエクスチェンジとは異なる側面を持っている。
Googleアドマネージャー
AdExchangeとの統合が実質的な抱き合わせ販売であり、独占的な取引であると強く示唆
されるGoogleアドマネージャーは、1990年代にダブルクリックが開発したDoubleClick DART「ダイナミック広告・ターゲティング/レポーティング」を基にGoogleが開発。
旧称はDouble Click For PublishersでこちらもGoogle製品のリブランディングと共に名称が変更になっている。
主な特徴は、GoogleAdExchangeと第三者の広告ネットワークを比較・競合させることで
価格を反映させることで収益を最大化させる「ダイナミックアロケーション」である。
「dynamic allocation=動的配分」
1日100万インプレッションの広告枠において、ダイナミックアロケーションを使用した場合、AdSenseと他の広告ネットワークを競合させることで、平均CPM(1,000インプレッションあたりの収益)が35円から41円に向上しました。
また、もう一つの大きな特徴として本来プログラミング等が必要で実装が困難であると
言われる、ヘッダービッディングをサーバサイドで簡単に実装できるOpenBiddingです。
Google AdSense
GoogleAdSenseは、12年前にGoogleが買収した収益最適化サービス「AdMeld」と15年後に買収したダイナミック行動分析システム「Dobule click」の二つをベースに開発した、
小規模向け広告ネットワーク。
- メディアの規模を問わずにGoogleの広告ネットワークに接続できる
- 難しい在庫管理を必要としない
- 広告取引の知識を必要としない
これらの3つの柱から成り立つinfoseekをインスパイアしたネット広告黎明期には
欠かせないWeb2.0の開かれた広告プラットフォームです。
AdMeldの広告最適化機能でGoogleが認定する第三者広告ネットワークを一元に管理を行うことで、1200億を超えるインプレション在庫の一部としてAdExcahngeを直接掲載するよりも低い提携基準を設けることが実現している。
シャーマン法とは?
シャーマン法は、1890年に制定された連邦法の一つで米国の反トラスト法の中心的な法律で、本法の主要な規定は、不当な取引制限を禁ずる第1条と、不当な独占を禁ずる第2条である
シャーマン法に違反した者には、法人なら1,000万ドル以下の罰金、個人の場合は35万ドル以下の罰金又は3年以下の禁固(併科あり)の刑事罰が科せられる。さらに、シャーマン法違反の行為で損害を受けた被害者は、違反者に対して民事訴訟を提起して、実際の損害の3倍の賠償金と弁護士費用を請求することができる。
関連事件「グーグル・アンドロイド事件」
欧州委員会は2018年7月、Googleが公式アプリストア「Google Play ストア」のアプリをプリインストールしたいAndroid端末メーカーに対し、「Google検索」と「Chromeブラウザ」もプリインストールすることを義務付けたことは、欧州の独占禁止法に違反したとして43億4000万ユーロの制裁金支払いを命じた。
端的に言うとAndroidOSを搭載したスマートフォンをメーカー各社が開発するならば
必ず「Google検索」「chromeブラウザ」「Google Play ストア」の三つをプリインストールしなければ実質的に販売許諾を取り消すという契約である。
この事はモバイル端末市場を故意に独占すると言うEUの判決である。
一方アメリカは、
2020年10月20日、米司法省は、米11州の司法当局と共同してワシントンDC連邦地方裁判所に、グーグル社をシャーマン法違反を理由として提訴した。 訴状は、グーグル社が、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場における独占事業者であり、同社の行為が、シャーマン法第2条に違反して独占を維持したと訴えている。
Google検索やchromeのプリインストールがライバルとなるBingやYahooなどの市場競争への参入を妨げたり、Google広告(リスティング)がライバル企業の広告掲載による収益化の機会を妨げていると=独占しているとして訴訟している。
2025年現在もこの事件に関して、Googleの控訴により最終的な判決は下りていない。
Googleによる2社の買収は既にDOJに認められている?!
Google広告事件に大きく影響を与えている「AdMeld」「Dobuleclick 」この二社の買収は
いずれも「AdMeld」は12年前、「DoubleClick」は15年前に FTC が DoubleClick の買収を承認しています。
それ以降、広告業界の競争は激化しておりアドテクノロジーは目まぐるしく進化を続けています。
- 昨年、MicrosoftはXandrを買収しました。Xandrは、Googleやその多くの競合他社と同様に、広告主やパブリッシャーにサービスを提供する完全な広告技術スタックを持つ広告プラットフォームです。この買収により、マイクロソフトはNetflixの広告ビジネスを構築するための画期的な契約に署名することができました。政府はこの買収に異議を唱えなかった。
- Amazonの広告ビジネスは現在、GoogleやMetaの広告ビジネスよりも速く成長しています。
- Appleの広告事業は急成長しており、今後4年間で300億ドルを超えると予想されています。また、Appleが独自のデマンドサイドプラットフォームを構築し、広告のフットプリントを拡大していることも広く報じられています。
- 中国本土以外でサービスを開始してからわずか5年で、TikTokは100億ドル近くの広告収入を得ていると報告されており、急速に成長を続けています。
- コムキャストやディズニーなどのメディア企業や、ウォルマートやターゲットなどの小売業者は、独自のオンライン広告テクノロジーサービスの構築に投資し続けています。
AppLovin、Criteo、Index Exchange、Pubmatic、Magnite、MediaMath、OpenX、The Trade Desk、Unityなどの専門の広告テクノロジー企業もあります。実際、The Trade Deskは最近、最も急成長している企業の1つにランクされました。これらは一般的な名前ではないかもしれませんが、毎日目にする多くの広告を支えています。
アドマネージャーは強制ではない
連邦裁判所の判事らは、AdExchangeの利用がアドマネージャーと併用を前提になっていることが抱き合わせ販売でありこれが市場の独占をしていると判決を下していますがGoogle
以下のように反発している。
パブリッシャーは、当社のアドエクスチェンジを他の広告サーバーと自由に併用できます。
訴訟では、パブリッシャーが当社のアドエクスチェンジを利用するには当社のアドサーバーの使用が義務付けられていると主張していますが、これは全くの誤りであり、テキサス州司法長官の訴えと同様に、この新たな訴訟にもそれを裏付ける証拠は示されていまん。
パブリッシャーは当社のアドエクスチェンジを他の広告サーバーと併用することが可能であり、実際に併用しています。
AdExchangeは独立して運用できる
現行アドマネージャーと統合されているため勘違いしてしまいやすいが、AdExchangeと
アドマネージャーは独立して運用できる。
アドマネージャーアカウントでアドエクスチェンジが有効になると上図のような
Ad Exchange+プロパティー名の最上位の広告枠が作成される。
そして、その枠とその親に属する広告枠はいずれもAd Exchangeタグを発行することができこれらを第三者広告サーバーに入稿することで併用することができる。
ただ、一つの制限としてAd Exchange広告枠(タグ)1つにつき関連付けれるの1つの
サイズまでなので一般的にアドマネージャーを呼び戻すパスバックタグを使うことが推奨
される。
OpenBiddingも選択肢の一つに過ぎない
オープンビディングは、ヘッダービディングの競争的な対応策であり、改良版です。
訴状では、当社がオープンビディングプログラムを通じて競合他社によるヘッダービディングという技術の利用を阻止したと主張していますが事実はそれを裏付けていないと主張している。
ヘッダー入札は、広告枠をめぐる広告バイヤーとの競争を⾼めるために、パブリッシャーに広く採用されているツールです。
私たちは、ヘッダー入札に代わるOpen Biddingという手法を開発しました。
Open Biddingは、同様の競争をデバイスではなく広告サーバー内で実現します。
このイノベーションにより、Web ページの読み込み時間が長くなったり、デバイスの
バッテリーの消耗が早くなったり、不正行為が増加することなど、ヘッダー入札に関連する問題が改善されます。
Googleの反論にあるとおりOpenBiddingは数あるサーバーサイドヘッダービッティングの一つでしかなくクライアントサイドのヘッダーヒッティングを導入することがコスト上、
困難である中規模メディアの収益化の要であることは紛れもない事実である。
そしてサーバー内で完結させるOpen Biddingは、Googleの主張通りWebページの
読み込み時間を改善させたりバッテリーの消耗を改善、不正行為による過払いを抑制する
効果もある。
決して、Googleはヘッダー入札を抑制したわけではない。
当社を含むあらゆるエクスチェンジにおいて、広告主がより効率的に入札できる
ツールを誤解しています。
これらの機能は、広告主が誤って過払いすることを防ぎ、その節約分をより幅広いオーディエンスにリーチする広告枠の購入に充てることができるように設計されました。
The Trade DeskやMediaMathなど、業界の他の企業も同様のサービスを提供しています。
我々は選ばされているのではない「選んでいるのだ」
米国司法省の意見にパブリッシャーの一目線で最後にまとめます。
Googleの広告テクノロジーは、競合他社の製品と連携するように構築されています。
パートナーは、パブリッシャー向けの80以上のライバルプラットフォームと広告主向けの700以上のライバルプラットフォームで、使用したい製品やサービスを簡単に選択できる
ようになっています。
実際、PubPower、Assertive Yield、Moneytizerのように様々な広告プラットフォームが
存在し、Moneytizerの様にGoogleアドマネージャーに依存しない製品もあります。
大手パブリッシャーは昨今、ウェブサイトで広告を販売するために6つの異なるプラットフォームを使用し、広告主やメディアエージェンシーは平均して3つ以上のプラットフォームを使用して広告を購入することになります。
- メディアの規模や特性
- 読者の利便性や体験
- 運用上の利便性
- 収益性とランニングコストなど
様々な事情で選択的に1つや2つに依存してしまうことも少なくないだろう。
しかし、これは選ばされているのではなく選んでいる出しかないのだ。
これを司法省は「パブリッシャーにGoogleを選ばせている」と訴え15年の投資を白紙に
しようとしているのは広告業界の明らかな衰退を引き起こすと言えるでしょう。
最も、この訴訟が認められ広告事業が分割されるようであれば、AdSenseはごく
一般的なアドネットワークやSSPと変わらなくなってしまう利便性を大きく損なう
ことになってしまう。「かなり使いづらくなるのでは?」
だからこそ、私は15年の投資の価値があるだろうと自信を持っている。